訪問歯科
訪問歯科の始め方。立ち上げの前に決めることと、確認する届出
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この記事の結論
訪問歯科は、機材をそろえることから始めるとつまずきます。先に決めるのは「誰を、どの範囲で、誰が診るか」です。そのうえで届出と記録の流れを固め、機材は決まった診療内容に合わせて選んでください。
「訪問歯科を始めたいが、何から手をつければいいか分からない」という相談を受けることがあります。 このとき、機材の見積もりから話が始まっていることが少なくありません。順番としては後のほうがよい、と考えています。
機材は、診療の内容が決まって初めて選べます。先に決めるのは、対象・範囲・人です。ここでは、その順番で書きます。
1. 誰を、どの範囲で診るのかを決める
訪問歯科の対象は、通院が難しい方です。外来と違い、患者さんのほうから医院を探して来ることはありません。 こちらから接点をつくらないと件数は増えないため、どこに、どのくらいの頻度で行くのかを先に決める必要があります。
検討の軸は大きく 2 つです。施設に定期的に入るのか、在宅の個人宅を回るのか。 施設は 1 回の訪問で複数名を診られるため移動あたりの効率は高くなりますが、施設側との調整や報告の手間が増えます。 在宅は 1 件あたりの移動負担が大きくなります。どちらを主にするかで、必要な人数も曜日の組み方も変わります。
2. 距離の要件を確認する
保険診療として訪問する範囲には、距離の要件があります。 往診料の規定では、保険医療機関の所在地と患家の所在地との距離が16キロメートルを超える場合の取り扱いが別に定められており、 16キロメートルを超える訪問は、その医療機関から行う「絶対的な理由」がある場合に限られる、という整理がされています。 中央社会保険医療協議会の資料では、この考え方が歯科訪問診療料についても同様に適用されるとされています。
実務としては、医院を中心にした地図を用意して、その範囲にどのような施設があるかを書き出すところから始めます。 営業の計画も、この地図の上で立てることになります。
3. 人の配置を決める
診療そのものは歯科医師と歯科衛生士で動きますが、実際に負担になりやすいのは診療以外の部分です。 訪問先との日程調整、当日の持ち物、記録、報告書、請求。これらを誰がやるのかを決めないまま始めると、 院長か歯科衛生士が診療の合間に処理することになり、その状態は長く続きません。
専任の事務担当を置けるのが理想ですが、規模によっては難しいこともあります。その場合でも、「誰の担当か」を業務ごとに紙に書いて決めておくことをおすすめします。担当が空欄のまま始まった業務は、たいてい院長に戻ってきます。
4. 届出と施設基準を確認する
訪問歯科に関わる施設基準には、在宅療養支援歯科診療所1・在宅療養支援歯科診療所2・在宅療養支援歯科病院といった区分があります。 届出をするかどうかは、これから行う診療の内容と、医院として満たせる要件によって判断します。
ここで注意していただきたいのは、要件も点数も改定のたびに変わるということです。 令和8年度の改定でも、歯科訪問診療料の注の番号が繰り下がるなど、届出の様式に関わる変更が入っています。 書籍やまとめ記事の数字をそのまま使わず、厚生労働省と地方厚生(支)局が出している最新の告示・通知、 および届出の一覧で確認してください。この記事でも、点数の具体的な数値は書きません。
5. 記録・報告・請求の流れを先に作る
始めてから最も早く詰まるのがここです。診療が動き出すと、記録と報告書が同時に増えます。 施設に出す報告、ご家族への説明、居宅療養管理指導に関わる書類、レセプトの摘要欄。 様式が決まっていないと、担当者ごとに書き方が変わり、後から確認する手間が発生します。
立ち上げの段階で決めておきたいのは、次の 4 点です。
- どの書類を、誰が、いつまでに作るのか
- 様式をどこに置き、更新は誰がするのか
- 施設への報告は、誰が、どの手段で届けるのか
- 請求前に、誰が内容を確認するのか
6. 機材は、決めた診療内容に合わせて選ぶ
ポータブルの診療ユニット、レントゲン、吸引器、器具類。訪問で使う機材は複数ありますが、 必要な構成は、どこで何をするかによって変わります。施設で口腔ケアと簡単な処置が中心なのか、 在宅で義歯の調整や抜歯まで行うのかで、必要なものは違います。
初期投資の総額は、選ぶ機材と、中古・リースを使うかどうかで大きく変わります。 金額の目安を先に置くより、1 か月の訪問件数の見込みと、そこから逆算した回収の見通しを立ててから選ぶほうが確実です。 ディーラーの見積もりは、条件をそろえたうえで複数社から取ってください。
7. 稼働してからの確認を決めておく
始めた後、うまくいっているかどうかは感覚では分かりません。件数と収支を月次で並べて見る場を、 立ち上げの時点で決めておいてください。見る項目は多くなくて構いません。
- 訪問した件数と、そのうち施設・在宅の内訳
- 1 日あたりの移動時間と診療時間
- 返戻・査定があった件数と、その理由
- 診療以外の業務にかかっている時間
黒字化までにかかる期間は、地域、体制、既存の関係の有無によって変わります。 「何か月で黒字になる」と一律に言えるものではない、というのが実際に立ち上げに関わってきた実感です。
まとめ
- 機材からではなく、対象・範囲・人から決める
- 距離の要件(原則16キロメートル)を地図の上で確認する
- 診療以外の業務の担当を、業務ごとに決めておく
- 届出と施設基準は、最新の告示・通知で確認する
- 記録・報告・請求の様式を、始める前に用意する
- 稼働後に見る項目を決めておく
立ち上げの進め方は、訪問歯科コンサルティングで、期間を区切った個別のプロジェクトとしてご一緒しています。 すでに動いている訪問診療の運営を整理したいだけの場合は、外部事務長の範囲で対応できることもあります。
出典
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第569回)資料「訪問診療・往診等における距離要件について」(令和5年12月27日)
- 九州厚生局「令和8年度診療報酬改定に伴う施設基準の届出等について(歯科)」(令和8年6月1日版)
診療報酬の点数や施設基準の要件は改定で変わります。実務にあたっては、 厚生労働省および地方厚生(支)局が公表している最新の告示・通知をご確認ください。
